底冷えする2月の土曜の朝、薄暗い事務所の奥から青年が顔を出した。「どうも栗原です、今日はよろしくお願いします」職人と聞いて想像していたのとは裏腹に、ごく普通の今どきらしい青年だった。
天井の高い工房は2階建て。材木店の倉庫のように長い木材が何百本も立てかけられている。まずは工房を案内してくれた。
富士製額の特長は木地から額を仕立てるところにある。一般の工房にない広い倉庫には、得意先のオーダーにも柔軟に対応できるだけの木地が揃っている。鉋をかけ、枠状に組み上げてから装飾する「本縁」ができることは伝統工芸にこだわるこの工房の強みでもある。
府中出身の26歳。教師の家庭に生まれ育ったが、自身はものづくりの世界に進んだ。「服飾の専門学校に行きたかったんですけど、大学には行っとけと言われて」。四年制大学を卒業後、趣味のギャラリー通いが高じて製額の世界に入った。「古典よりも近代美術が好きで、小さな画廊によく足を運んでいたんです。アーティストや画廊って額にこだわりがある人が多いので、額には昔から興味がありました」
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