3代目森田さんと娘の高橋さん
荒川スポーツセンターを右手に通りを進むと荒川工業高校に突き当たり、道路はぐっと右手に曲がっていく。
そこを曲がらずに高校の左手の小道に入り、すぐに左へ曲がるとほどなく、年季の入った臙脂(えんじ)色の屋根を持ち、ところせましとお酒や看板が並んだ酒屋が見えてくる。小さく開け放された店の横の間口からは、昼間から明らかにお酒を片手に談笑する客の姿が見え隠れしている。
モリタヤ酒店だ。
この地域で戦前から店をもち、地域とともに歩んできた。戦争の際には空襲で周りの地域が焼け野原となってしまったが、このモリタヤの周辺地域は奇跡的に焼けずに残った。周りの家はあらかた建てなおされ、モダンなつくりに変わっていく中、モリタヤは戦前の建物をそのまま残し、今もなお現役の酒屋として使っている。
常連でもない自分が店に入るのには少しだけ勇気がいる。それでも、もともと来ると約束していたのだから大丈夫、と言い聞かせ、茶色く枯れた杉玉の下をくぐり、店の戸を開ける。
「いらっしゃい」
戸の先には、魔法で時が止まったかのような空間が広がっている。
正面に目に入るのは「赤玉ポートワイン」の広告。マッサンでも話題となった日本初のヌード広告のそれが、こんなところに掛かっている。
左手には小さなカウンターがあり、お店の方がお客さんと電話で話し込んでいる。なにやら複雑な注文が入ったようだ。カウンター上には温泉街にあるようなレトロ調満載の「キリンビール」。
正面から右側にはびっしりとお酒が並んでいる。回遊式になっており、ワインやウイスキーも置いてある。しかしなんといっても主役は大量の日本酒だ。
右手奥の壁には、「大関」「泰山」「白雪」と書かれた立派な木製の看板広告が掲げられている。今ではあまり目にすることのない、一枚板にしっかりと彫り込まれた広告。開店祝いとして酒蔵からいただいたものらしい。
すでに廃業した酒蔵も
店は昭和元年創業。今年90周年を迎える。 3代目のご主人と、4代目となる娘夫婦で店を切り盛りしている。今年4月からは、90周年を記念した様々な新しい催しを毎月開催し、それを目当てに遠方からも客が来るようになった。
4代目となる若旦那は1年半ほど前から本格的に店の手伝いを始めた。以前は普通の会社員だったため、「カルチャーショックはあります。」と言う。
「味わってみて、その味を説明することはできるんですが、原料、造り、酵母。それらによってどう味が変わるのか。そういったことはまだ勉強中です。ただ、この世界は自分で試してみないとお客さんにオススメできないので、やっぱりとことん飲んで、自分で味わって、実感を伝えるしかありません。」
今後どういうお店にしたいのか?お聞きしてみる。
「いろいろお酒は置いていますが、基本は和酒。それに日本のワインを今後固めていこうかなと思ってます。気軽に入りやすいお店にしたいかな。角打ちにしても、2階のいろり部屋にしても、女性がもっと入りやすいお店にしたいなというのはあります。最近は女性客も増えてはいるのですが。」
今後は、地元の女性が一緒に気軽に来てもらえるような女性向けイベントも企画中だそうだ。
いろり部屋はこんな感じ。普段はレンタルスペースとして。当日も会社の方が連れ立って宴会中でした。
毎月1回は実施しているというイベント、10月の予定をお店からいただいたのでご紹介。今月は3件ものイベントが目白押しだ。
★10月1日(木) 「全国一斉 日本酒で乾杯!」19:30〜
10月1日は日本酒の日。 酒造りの始まる月であり、日本酒が最も美味しい季節とも言われているのが10月です。そこで酒造りの元旦とも言える10月1日が日本酒の日となりました。その10月1日の19:30に全国一斉に乾杯して、みんなで乾杯している画像を投稿(参加)しよう!というイベントに、当店も初参加します。
この日は、通常予約制としています当店2階のいろり部屋も無料開放しますので、いろり部屋でも角打でも、どちらでもお好きなほうで乾杯! いつもの角打メニューの他にも美味しい肴をご用意する予定です。 「酒造りの元旦」をみんなで楽しく盛り上がりましょう!
角打ちはお店左側の入口から入ります
★10月2日(金)&3日(土) 「秋酒 ひやおろし 無料試飲会」 16:00〜@角打モリタヤ(予約不要)
春先にしぼった新酒は一度火入れされ、暑い夏の間ひんやりした蔵の中で眠ってすごします。その後、2度目の加熱殺菌をせずに「冷や」のまま出荷されるお酒が、ひやおろし。それを11種類飲み比べできる無料試飲会を開きます。
この秋口だけに楽しめる、まろやかで旨味たっぷりに熟したお酒たちを、ぜひお試しください!
★10月17日(土) 「ミニコンサートと日本のワインでいろり会」 18:00〜@いろりモリタヤ(要予約。残席わずか)
芸術の秋ということで日本の歌からオペラまで、芸大出身のオペラ歌手によるミニコンサートを開きます。音楽とワインをどちらも楽しみたい方にピッタリ! コンサートの後はいろりを囲んで余韻にひたりながら日本のワインを飲み、秋の夜長をたのしみましょう。
歌手について:
ソプラノ歌手、渡辺真弓さんをお呼びします。東京芸術大学を卒業後、日本音楽コンクールなどで入賞。地元流山を中心にコンサートを開きご活躍されています。
イベントの説明を聞いた後、3代目の森田さんに話を聞いた。
物腰がとても柔らかく、柔和な声で訥々と、お酒や酒蔵に対する愛情を語りはじめる。
「日本酒というのは世界でもっとも複雑な作り方をしていてね。というのはアルコールを作り出すには糖類と酵母があることが必要なんだけど、お米というのは糖類が少ないものだからね、、」
「火入れというのは低温殺菌なんだけど、世界ではパスツールが発見したということになってるけど、日本は大昔からとっくに発見してるんですよ」
「この◯◯というお酒はうちが特約店になってるもので岐阜県の酒蔵でしてね、蔵元が◯◯さんといって、女性なんですよ。なんでこういう銘柄なのかというと、もともとこの村の出身の役者がいてね、、」
このお酒はどこの酒蔵の酒でどういった特徴があり、誰が作っていて、どういう背景で出来たものか。店にあるあらゆるお酒のこと、業界のこと、歴史的背景、あらゆることを諳んじている。聞けば、戸口に下げてある酒林(さかばやし。または杉玉)も、ご自身で毎年作っているものなのだという。
お酒とともに自然に重ねてきた年月を感じる語りに引きこまれる。
多数の銘柄を提供している。それぞれが持つ歴史にも想いを馳せたい。
ただお酒を味わうだけでなく、その背景にあるいろんなことを知って、その上で楽しむ。 格段にお酒を飲むのが楽しくなりそうです。最近日本酒から少し遠ざかっていた自分も、俄然興味が湧きました。 モリタヤのイベント、きっとそんな話も聞けるはず。ぜひ行ってみて。
- 店名:モリタヤ酒店
- 住所:荒川区南千住6-17-5
- 営業時間:10:00-21:30(日曜、祝日は21時閉店)
- ※イベントの最新情報などはモリタヤ酒店のFacebookをご確認ください。
読者コメント